大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

大阪高等裁判所 昭和58年(ラ)103号 決定

抗告人

土田かずへ

抗告人

土田與志紀

抗告人

合資会社土田地所

右代表者無限責任社員

土田與志紀

右三名訴訟代理人

大島治一郎

相手方

神崎榮美子

相手方

佐々木愛子

主文

本件抗告をいずれも棄却する。

抗告費用は抗告人らの負担とする。

理由

第一申立ての趣旨

原決定を取り消す。

相手方らの昭和五八年二月二四日付文書提出命令の申立てを却下する。

第二抗告人らの抗告理由

別紙「抗告の理由」記載のとおり。

第三当裁判所の判断

一一件記録によると、申立人らは大津地方裁判所彦根支部昭和五六年(ワ)第一四六号遺留分減殺等請求事件の第五回口頭弁論期日(昭和五七年一二月三日午後二時)において、申立人土田かずへ、同土田與志紀の被相続人亡土田栄太郎作成名義の一九七三年(昭和四八年)の当用日記及び一九七四年(昭和四九年)の当用日記のうち、一九七三年の当用日記については、その見開き部分を乙第三七号証の一として、昭和四八年一〇月二〇日から同年一一月一日(ただし、一〇月三一日の欄には、一一月二日の分の趣旨の記載がある)まで及び同年一二月三一日の各日付部分を乙第三七号証の二ないし一五として、一九七四年の当用日記については、その見開き部分を乙第三八号証の一として、昭和四九年一月一〇日付の部分を乙第三八号証の二として、同年三月二〇日付の部分を乙第三八号証の三として、原審裁判所に提出し、申立人らは共同して右各当用日記を所持していることが認められる。

二ところで書証の申出は、文書(原本・正本又は認証のある謄本)を提出し又はこれを所持する者にその提出を命じることを申し立ててこれをなすべきものであり(民訴法三一一条、三二二条)、挙証者がみずから所持する文書を書証として提出する場合は、証すべき事実を表示して(同法二九八条)、その写とともに提出することを要する(民訴規則三九条)。しかし当該文書が大部である場合、その写を作成するのに多くの労力を要するし、また当該訴訟に直接関係のない部分の多いことがあるから、そのような場合には、挙証者は当該訴訟に関係のある必要部分のみを特定し、当該部分を証拠資料とする趣旨において、特定部分に証拠番号を付し、その写を提出するのが一般である。しかしこのような場合においても、当該文書が全体として一個の文書と観念される限り、右により当該文書が一部に限定されることなく、その全体が一個不可分の文書として裁判所に提出されたものといわざるを得ない。そして裁判所は必要があると認めるときは、右文書全体を留置くことができ(民訴法三二〇条)、したがつて訴訟関係者は爾後これを閲覧することも可能となる。

ところで日記文書は、各日付け毎に一応独立した文書ということができるが、しかしまた同時に、右各日付けの文書が集合して、一冊の不可分な綜合文書を構成するものといわなければならない。したがつて挙証者がその所持する日記文書の一部を、証拠資料とする趣旨で、その一部分に証拠番号を付し、その部分の写のみを、日記文書とともに提出したにしても、日記文書の不可分一体性から、当該日記文書全部が、現実に裁判所に提出されたものといわなければならない。

ところで民訴法三一二条一号における引用とは、当該文書の引用が訴訟中において行われれば足り、口頭弁論における弁論中に引用される必要はなく、準備手続における陳述において引用された場合でも、また未陳述の準備書面の記載中に引用されている場合でも、さらに引用者が後日訴訟において引用を撤回した場合においても、右条項にいう引用と解せられるが、右のように単に証拠調前の引用に限らず、証拠として提出したこと自体をも、右条項にいう引用と解するのが相当である。

蓋し、民訴法三一二条一号の法意は、証拠上の公平と真実発見の見地から、当事者の一方が所持する文書を、訴訟において引用した場合に、これを契機として、相手方にもこれを使用することを認めようとするものであるからである。

したがつて、右当用日記の証拠調が完了したということをもつて、右条項の引用に該当しないということはできない。

さらに抗告人らは、日記文書には個人の赤裸裸な感情の発露を記載した部分や秘事にわたることも多く、一般に公開されるべき性質のものではない旨主張する。

日記文書が抗告人らの右主張のとおりの性質を有することは明らかであるが、挙証者がその所持する日記文書を証拠として引用した以上、右日記文書全部が裁判所及び訴訟関係者の目に触れる状況に至るのであるから、右日記文書全部の秘密保持の利益は、これにより放棄されたものとするのが相当であり、証言拒絶をなしうるような特別の事由(民訴法二八〇条、二八一条参照)がない限り、挙証者は右日記文書全部を、同法三一二条一号に該当する文書として提出する義務を免れないと解すべきところ、抗告人らは、右特別の具体的事由の主張も疎明もなさない。

そして本案訴訟の性質、経緯に徴すると、相手方らにおいて本件各当用日記を証拠とする必要性を肯認することができるから、相手方らの本件文書提出命令申立ては理由があり、これを認容した原決定は正当であつて、抗告人らの本件即時抗告は理由がない。

よつて抗告人らの本件即時抗告をいずれも棄却し、抗告費用の負担につき民訴法四一四条、九五条、八九条を適用して、主文のとおり決定する。

(小林定人 山本博文 小林茂雄)

抗告の理由

一、原決定

相手方らは前記事件について、昭和五八年二月二四日付をもつて民訴法第三一二条第一号を根拠として、文書提出命令の申立をなし、原裁判所は右申立を理由ありとして、即日決定をもって抗告人らに右文書の提出を命じ、右決定は同月二六日抗告人らに送達された。

二、原決定を不当とする理由

1 右文書提出命令は抗告人らが前記事件において、証拠書類として、乙第三七号証の一ないし一五(亡土田栄太郎の昭和四八年一〇月二〇日より同年一一月二日まで及び同年一二月三一日の日記)と並びに乙第三八号証の一ないし三(亡土田栄太郎の昭和四九年一月一〇日、三月二〇日の日記)として提出したところ、亡土田栄太郎の昭和四八年度及び昭和四九年度の全部の日記、日記帳そのものの提出を命ずるというものである。

2 しかし、

(1) 抗告人らが証拠書類として右の乙号証を提出したことが、日記帳の他の日付の日記部分について、民事訴訟法第三一二条一号の「当事者が訴訟に於いて引用したる文書」には該当しない。

抗告人らは乙号証として提出した部分については、原本を提示して証拠調を終えている。

乙第三七号証の一、乙第三八号証の一は日記帳の見開き部分であるが、これは年度を特定するためで日記帳全部を証拠とするためでないことはいうまでもない。

従つて、日記帳の前記証拠として提出した日付以外の日の日記部分は何ら証拠として提出していない。

(2) 証拠書類と、訴訟に於いて引用した文書とは異なる概念であり(民訴法第一三一条二号でははつきり区別して規定する)、被告が訴訟において提出した証拠書類は民訴法第三一二条一号の当事者が訴訟において引用した文書には該当しない。

(3) 日記帳の各日付の日記は、それぞれ日付毎に独立した別個の文書であり、当事者が日記帳のある日付の記載を証拠として提出しても他の日付の記載を引用したことにはならない。(抗告人らは準備書面においても口頭弁論の陳述においても何ら右日記の記載を引用してはいない。)

(4) 日記は個人の赤裸裸な感情の発露を記載した部分が多く、又秘事にわたることも多い。一般に公開されるべき性質のものではなく、公開されるのは当事者が許容した部分に限られるべきである。

三、以上述べたところにより、原決定は不当であることが明らかであるから、原決定を取消し、申立は却下されるべきであるから本件抗告に及んだ次第である。

文書の表示

一 亡土田栄太郎の昭和四八年及び同四九年の日記

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例